経営企画部門からみた「健康経営実践」の合理的な理由

2022/03/08 掲載

経営企画部門からみた「健康経営実践」の合理的な理由

近年、従業員の労務管理について重要性が高まっています。ストレスチェック導入やハラスメント対策、働き方改革など働き方そのものが変化していく中で、現在最も注目されている施策が「健康経営」です。

今まで叫ばれてきた働き方改革では「長時間労働」に焦点を絞った対策を行っている企業が多い傾向にありました。しかし、コロナ禍において、テレワークの実施等により「長時間労働」そのものは改善されていても、従業員のパフォーマンスが上がっている企業、変化がない企業、そして下がっていると感じている企業に分類されることが弊社の取引先企業への調査でもわかってきました。
特に、パフォーマンスが下がっていると感じている企業にインタビューを行うと、従業員からの不定愁訴(検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態)が多く、メンタルヘルス不調が増えている傾向が強くなっていることがわかりました。

弊社でも、テレワーク開始後の2020年4月上旬に全社員96人に対し調査をしたところ、67%が運動不足であり、85%がからだのこりや腰痛などの不調を感じると回答しました。
さらに、外出自粛に伴う運動不足だけではなく「自宅での作業環境が整っていない」「周囲とのコミュニケーションが取りづらい」など、心身の不調が起こりやすい就労環境を原因とした労働生産性の低下が起きていることが確認できました。そこで、新しい生活様式に合わせた健康経営の取り組みとして、2020年4月下旬より全社員に対し、保健師、理学療法士、管理栄養士によるオンラインセミナーのほか、オンライン体操(毎日4回、定時開催)を実施するなど、テレワーク時の健康増進プログラムを開始しました。

これらの取り組みの実施前後をNumerical Rating Scale(痛みの評価尺度)で評価した結果、からだのこり感は19.3%と有意に減少がみられています。気分も一時的気分尺度を用いて評価した結果、ネガティブな気分(抑うつ・怒り・混乱・緊張・疲労)が6.7%~16.0%と有意に減少し、ポジティブな気分(活気)が13.9%と有意に向上していました。※1

健康増進プログラム画像

健康経営導入の効果

1. 株価や営業利益率向上への影響

2018年6月に公開した、公益社団法人日本経済研究センター スマートワーク経営研究会の「働き方改革と生産性、両立の条件」調査レポート※2によると、健康経営を実施している企業は、総資産経常利益率(ROA)と 売上高営業利益率(ROS)に利益率向上があると示されています。
そのうえで、健康経営度調査に回答した企業全体の総合得点加重ポートフォリオを確認すると、TOPIX指数との比較では5年間で30%程度の超過リターンとなり、株価への影響も確認できており、健康経営への取り組みの実施前5年間と実施後5年間を比較すると、どの業種でも売上高営業利益率の向上がみられます。

2. 採用や離職率低下への影響

経済産業省 ヘルスケア産業課発行のレポート「健康経営の推進について」においても、新卒の就活生やご家族へのアンケート調査から、就職先選定の際に「従業員の健康や働き方に配慮している」を一番重視する傾向があり、人材確保の目的で「健康経営」に取り組む企業も増えてきています。
人材戦略的な目線でも「採用力強化」は重要な観点であり、時間と費用をかけて教育した従業員の離職については企業に与えるダメージは小さくないため、従業員の定着率が上昇することが重要であることは言うまでもありません。
健康経営優良法人を取得した企業と取得していない企業を比較すると、離職率について2倍の結果の違いがでており、大規模企業では、従業員の定着と不必要な採用コストがかからないだけで、数千万円から億円単位の利益の影響があると考えられます。

健康経営を成功させるための戦略

経済産業省は2014年から健康経営度調査を実施しており、回答企業は年々増加しています。健康経営を導入したが上手くいかないという声が聞かれますが、健康経営を導入し成功させるための戦略として、弊社の状況を踏まえ、健康経営を成功させる秘訣を2つ紹介させていただきます。※3

①会社トップからの強いメッセージ

企業理念に基づき、会社のトップが健康経営に取り組む熱いメッセージを従業員に伝えることが必要です。「企業の健康宣言」を明確に伝え、いかに従業員のモチベーションを高めるかが、健康経営の成功に大きく影響するからです。

②PDCAサイクルが回る仕組みづくり

企業の健康課題は何か、健康経営中長期計画のロードマップや戦略マップの策定が必要です。健康課題を解決するための重点施策を設定したうえで、目標達成に必要なプロセスを指標化して、実施状況や達成度を評価していくことが重要です。
従業員が率先して健康経営に参画し、自らの生活習慣の改善やパフォーマンス向上につながるプログラムを実施し、進捗状況を定量的に把握しながらPDCAサイクルを循環させる仕組みをつくることで健康課題の解決につながります。

最後に

健康経営を導入することで、従業員がより健康となり生活の質(QOL)が向上します。
それだけでなく、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価上昇につながる好循環が生まれます。働く皆さまや企業の経営者の皆さまのために、今回のコラムが健康を経営の視点から考えていただく機会のひとつとなれば幸いです。

【参考文献】
※1 第79回日本公衆衛生学会総会2020,ポスター発表
※2 働き方改革と生産性、両立の条件:日経Smart Workプロジェクト
https://www.jcer.or.jp/wp-content/uploads/2018/08/SA_IR_f.pdf
※3 健康経営、タニタヘルスリンク
https://www.tanita-thl.co.jp/company/kenkokeiei

コラム 筆者プロフィール

タニタヘルスリンク
健康経営推進プロジェクト事務局(へるすりんくらぶ)

 

※本コラムに記載されている情報は掲載日時点のものです。このため、時間の経過あるいは後発的なさまざまな事象によって、内容が予告なしに変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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