宇宙旅行に備えて知っておきたい食事と運動の話

2022/10/11 掲載

2021年は「宇宙旅行元年」といわれ、ついに民間人も宇宙旅行できる時代がやってきたのかと嬉しく思う反面、旅費の面も含めてまだまだハードルが高い旅行といえますよね。私は小学校の卒業文集に「宇宙へ行って、無重力を体験してみたい!」と書いたくらい、宇宙に憧れたことを覚えています。

今回は、そんな憧れの宇宙で必要な食事と運動について調べてみました。

宇宙といえば、無重力
~1日に必要なエネルギー量はどのくらい?~

宇宙飛行士が無重力空間でぷかぷかと浮いて生活する様子をみて「どんな感覚なんだろう? 体験してみたいな」と思ったことはありませんか? もちろん、実際は過酷な状況下なのですが、ぱっと見は楽しそうに思えたりしますよね。

船内のスペースは限られているし、立って歩いたりする必要もないのでからだへの負荷も少ないように見えます。そうなると、必要なエネルギー量は地上と比べて少ないのでしょうか。それとも、特殊な環境によるストレスなどの影響により、地上と比べて多いのでしょうか。

宇宙で1日に必要なエネルギー量について調べてみました。※1

  • 日本人男性の例
    (40歳、体重70kg、活動度ふつう):
    1日あたりの推定エネルギー必要量
    地上:2,400~2,650kcal
    ISSミッション:2,875kcal
  • 日本人女性の例
    (40歳、体重50kg、活動度ふつう):
    1日あたりの推定エネルギー必要量
    地上:1,950~2,000kcal
    ISSミッション:2,022kcal

ISSミッションとは、宇宙で最大の人工衛星である国際宇宙ステーション(International Space Station、略称:ISS)に滞在して行われる360日未満のミッションのこと
◆船外活動(EVA)を行う場合は500kcalを余分に摂取

このように、地上とほとんど変わらないか、男性の場合はおにぎり1個分程度多く必要なことが分かりました。必要なエネルギー量はその日のミッションによっても変わってきそうです。

筋肉量や骨量を維持するために
~宇宙飛行士の1日のスケジュール~

重力がほとんどない国際宇宙ステーションの中では、筋肉や骨はからだを支える必要がなくなるために、何もしなければ必要なエネルギー量は地上より少なくなるようです。ですが、何もしないでいると必要なエネルギー量が減り、それにともなって食べる量を減らすばかりでは、筋肉や骨は弱っていく一方です。これは宇宙に限った話ではなく、地上でも同じことがいえます。
さらに、宇宙滞在によって骨量は1カ月に0.5~1%減少するとされており、地上の加齢性変化よりも早いスピードで骨量が減少するといわれています。

そこで、筋肉量や骨量をできる限り維持するために、宇宙飛行士がどのような宇宙生活を送っているかをみてみましょう。

※2 ※3

朝昼夕と規則正しく食事をとり、毎日2時間半の体力維持エクササイズと約8時間の睡眠時間を確保することで、健康管理に必要な「食事・運動・休養」をしっかり行うスケジュールが組まれているようです。筋肉量や骨量を維持するためには適度な負荷をかけてからだを動かすこと、そしてその活動量に見合うエネルギー量を摂取することが必要不可欠となります。この考え方は、地上でも変わりません。

その他の栄養素はどのくらい必要?

せっかくなので、その他の栄養素についても比較してみましょう。

宇宙で摂取基準量が多く設定されている栄養素

  • 基本的には米国の地上での栄養摂取基準量をもとに基準が決められているのですが、宇宙滞在中の筋肉量や骨量を維持するためには、カルシウムとビタミンDなど骨量減少を予防する栄養素が強化されています。
  • また、宇宙では、宇宙放射線への被ばくの影響から酸化ストレスへの対応が必要で、抗酸化作用が期待できる栄養素であるビタミンEなども強化されています。

宇宙で過剰摂取に気をつけたい栄養素

  • ①鉄:
    鉄は地球上では不足しやすい栄養素の一つですが、一方で過剰になると酸化ストレスの影響を強く受けやすくなることも知られています。そのため、酸化ストレスを受けすぎないために、1日の摂取量は比較的低く設定されています。
  • ②ナトリウム:
    ナトリウムは、宇宙での骨量減少と尿路結石の予防の観点から、過剰な摂取には注意が必要な栄養素です。宇宙空間では筋肉量、骨量の減少とともに、尿路結石が健康上のリスクとして考えられています。尿路結石の発作は突然起こり、激痛でもあることから予防が非常に重要です。
    重力が低い環境で過ごすことで骨のカルシウムが溶け出したり、尿中のミネラルバランスが変化することが原因で地上よりも尿路結石のリスクが高まることもあるため、ナトリウムの摂りすぎは要注意なのです。

宇宙食は鉄もナトリウムも含有量が多い傾向にあるため、基準値を超えないようにするのは難しい実情があるようです。また、宇宙では味の感じ方が若干鈍くなり、より濃い味付けやスパイスが効いた味付けを美味しく感じるのだそう。そのため、宇宙飛行士は各国自慢のスパイスを持ち寄り美味しく食べる工夫をしています。その中でも日本の「わさび」は、他国の宇宙飛行士にも人気があるのだとか。

今後の宇宙ミッションに期待される栄養素(疾患予防の観点から)

  • ①ω-3脂肪酸:
    EPA、DHA:マグロ、さば、イワシなど
    α-リノレン酸:シソ油、えごま油、アマニ油
  • ②抗酸化剤:
    宇宙放射線への対策や心疾患や悪性疾患の発生予防として
    …ビタミン類、微量元素、ポリフェノール類
  • ③ビタミン類:
    上記抗酸化ビタミン類以外に、骨量減少対策に重要なものとして
    …ビタミンD、ビタミンK
  • ④ミネラル類:
    骨量減少、尿路結石、心血管疾患予防の観点から
    …カルシウム、カリウム、マグネシウム

これらの栄養素に関して、期待する効果をもたらす適切な摂取量は今後の検討課題となっています。宇宙での研究は、加齢に伴う健康リスクを抱える私たちにも良い影響を与えてくれそうですね。

筋肉や骨を鍛えて、宇宙に行く準備をはじめよう

宇宙ビジネスの市場規模予測は、世界的に拡大しています。また、日本人宇宙飛行士候補者の募集が2021年に発表され、前回まで4年生大学(自然科学系)卒業以上を求めた学歴が不問になるなど、応募条件は大幅に広がりました。
宇宙飛行士を目指すもよし、宇宙旅行を夢見るのもよし。地上でもしっかりとからだを動かす習慣を身につけておくことが、宇宙へ行くための最低限の準備といえそうです。

スポーツの秋・食欲の秋、宇宙飛行士が宇宙のどこかで毎日トレーニングや食事をしている様子に思いを馳せながら、からだを動かしてみたり、食事にスパイスを取り入れてみたりするのはいかがでしょうか。いつもとは違った景色が見えてくるかもしれませんね。

【参考文献】
※1 宇宙航空環境医学 Vol45,No.3,75-97,2008
https://www.sasappa.co.jp/online/abstract/jsasem/1/045/html/1110450301.html
※2 ファン!ファン!JAXA! 国際宇宙ステーション(ISS)ではどんな生活をするのですか?
https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/177.html
※3 JAXA 宇宙映像館
https://iss.jaxa.jp/gallery/sp-museum/c06_life/index.html

・JAXA ISSでの日常生活
https://humans-in-space.jaxa.jp/life/health-in-space/life/
・World Health Organization.: Energy and protein requirements. Report of a joint FAO/WHO/UNU expert consultation. WHO, Geneva, Switzerland, 1985.

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