薬の効き方も違う?男女差による生活習慣病のリスクとは?

2012/03/28 掲載

TOPほとんどの生物(植物の場合は、少数ですが)に共通する特徴がありますが、なんだと思いますか?  ヒト、昆虫、魚、イチョウの木にも共通すること。それは一般に「2つの性があること」です。

この性差により、少なくともヒトでは、脳の使い方、すなわち考え方や好みといった心理的面でも、かかる病気や効く薬といった身体的な面でも違いがあると言います。

心理的側面にも興味はあるのですが、今回は身体的・機能的な男女差に注目し、性差医療、中でも生活習慣病の男女差に関してお話しします。
 

体内のメカニズムが違う?

例えば、“心筋梗塞”と言えばどんな症状が出ると思いますか?私は胸に痛みが出るものだと思っていました。
これは間違いではないのですが、女性の場合は、腹痛や胃もたれなどの消化器系の症状が出る場合もあるそうです。

また、“狭心症”の症状にも男女では違いがあります。
一般に、狭心症は心臓表面の太い血管の内部が狭くなることで生じるとされています。しかし、女性の場合は、心臓の筋肉の中の微小な血管に血液が流れなくなることで、狭心症となるケースもあると言います。

これらの病気の症状だけでなく、薬の効き方にも、男女で違いがある場合があります。男性に効くとされた薬が、女性には全く逆の効果が出て症状を悪化させる場合や、反対に女性に効果のある薬が、男性には意味がない場合もあるのです。これは、体内における薬物の処理メカニズムが、男女で異なるということを示しています。性差医学に関する研究は、ここ20-30年ほどで活発になってきた話題です。まだまだわかっていないことも多いと思います。今後も新しい話題がどんどんと出てくると思いますので、注目していきたいです。

男性ホルモンと女性ホルモンのはたらき

男女のからだの差の主な要因は、性ホルモンです。いわゆる、男性ホルモン、女性ホルモンですが、これは、思春期に生じる身体的特徴以外にも、脳、心血管、骨、筋肉、皮膚と、全身に対して、生涯からだに大きな影響を及ぼします。

女性ホルモンには、高血圧、高脂血症、動脈硬化、肥満症、骨粗しょう症を防ぐ効果があります。一方、男性ホルモンには、タンパク質を合成して筋肉を増やしたり、血中コレステロールを上げたり、中性脂肪を増加させる働きがあります。

なんだか、筋肉を増やす以外は、女性ホルモンの方が男性ホルモンよりいい影響ばかりなのでは?という気がしますが、これらは一生に渡って一定量が分泌されるわけではなく、女性ホルモン、男性ホルモンともに、40-50代になるとその分泌量は低下します。

特に、女性における女性ホルモンの分泌量の低下は著しくなりますが、これが更年期と呼ばれる時期です。分泌量が減少することで、体内のシステムが変化し、上記の女性ホルモンの影響が急激に低下します。そのため、若いうちは男性の方が生活習慣病のリスクは高いのですが、更年期以降の女性も男性同様に生活習慣病のリスクが高くなります。

例えば、更年期前は女性と男性の心血管系疾患患者は、男性が圧倒的に多いのですが、閉経後女性では患者数が一気に増加し、70代頃には男女同等の患者数になります。

生活習慣病リスクの男女差

男女では、具体的にどのように生活習慣病リスクの差があるのでしょうか。

≪生活習慣病リスクの男女差の例≫

生活習慣病リスクの男女差

  • ・心筋梗塞に対する最大の危険因子は、男性は高血圧、女性は喫煙
  • ・喫煙習慣による心筋梗塞の危険性は、非喫煙者に対して、
     男性は4倍、女性は8倍
  • ・喫煙習慣による脳血管疾患の危険性は、非喫煙者に対して、
     男性は1.3倍、女性は2倍
  • ・糖尿病は男性患者が多いが、糖尿病予備軍は女性に多い・骨粗しょう症患者は、女性は男性の3倍

 

増加する「肥満」と「やせ」

生活習慣病の代表的なリスクとして、まず「肥満」が挙げられます。

BMI(体格指数=体重[kg]÷身長[m]÷身長[m])が、25以上であると肥満に分類され、明らかに高血圧や糖尿病の発症率が増えるとされています。
 

★あなたのBMIはいくつ?判定してみましょう。

【BMI計算式】

BMI=体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]

【BMIによる肥満判定】

BMI値
18.5未満
18.5~25未満
25~30未満
30以上
判定
やせ
普通
肥満度1度
肥満度2以上

※判定結果は2000年4月号日本肥満学会誌『肥満研究』に準拠しています。
この身長から適性体重を計算するBMI(Body Mass Index)ボディ・マス・インデックスは、肥満を研究している先生方の間で広く使われています。

厚生労働省から発表された、国民健康・栄養調査によると、男性の肥満者の割合は増加しており、反対に女性は肥満者が一定~減少傾向にあると言います。ということは、現状、日本人男性において生活習慣病のリスクも上昇してきていると考えられます。メタボリックシンドロームが、流行語に選ばれて数年、日本人の死因の上位をしめる“心疾患”、“脳血管疾患”につながる可能性の高い肥満者が男性で増えている現実・・・、非常に残念です。
また、男性とは反対に、若年女性ではやせ(BMIが18.5未満。身長160 cmであれば、47.4 kg未満)の割合が増え、20代では3人に1人近くがやせだといい、やせの割合の増加が問題となっています。こんな男女の自分の体型に対する意識の差、これも性差による影響かもしれませんね。男女では、体内のメカニズムも、身体的・心理的にも違いがあることが分かってきています。しかしながら健康のためには、性別に関係なく、バランス良い食事や運動、生活習慣の改善が重要です。


この機会に、改めて自分のからだと向き合って、日頃の生活(食事・運動・喫煙・飲酒)を見直し、 生活習慣病になりにくい、健康的なからだづくりを実践していきましょう!

 

【参考資料】
NHKスペシャル取材班、「女と男~最新科学が解き明かす「性」の謎~」、角川書店、2011。
太田博明、「男と女でこんなに違う生活習慣病」、講談社、2006。
田中冨久子、「女の老い・男の老い」、NHK出版、2011。
厚生労働省、「平成22年国民健康・栄養調査」

※本コラムに記載されている情報は掲載日時点のものです。このため、時間の経過あるいは後発的なさまざまな事象によって、内容が予告なしに変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。