管理栄養士直伝!栄養素を逃さない食品保存テクニック
2022/11/08 掲載
購入した野菜が冷蔵庫の野菜室で乾燥してしまったり、バナナが真っ黒になったりした経験はありませんか?
SDGsが話題になり、物価上昇も気になる昨今、購入した野菜や食材を無駄なくおいしく食べきる技を覚えておくとお得なことがたくさんあります。
今回は特に、栄養素(栄養価)をキープするための冷蔵と冷凍の方法をご紹介します。
1. 冷蔵庫での保存
冷蔵庫内で食材が劣化する要因には、温度や湿度等の外的要因と、野菜の呼吸や果物の追熟などの内的要因があります。
野菜は収穫後も成長しようと呼吸を続けるため、保存の仕方によっては栄養を消費してしまいます。
野菜の冷蔵保存のポイント
①袋から出し、成長点(生長点)を取り除く
②育った時と同じになるよう立てて保存する
③適した温度・湿度にコントロールする
①②成長点のカットと、立てて保存することで栄養の消費を防ぐ
成長点とは、葉や茎の先、芯などで野菜が細胞分裂を繰り返している部位のことです。細胞分裂が進むことで栄養や水分を消費してしまうので、成長点を切って保存すると栄養素の損失を防げます。
育ったときと同じ位置で保存するのは、縦に成長していた植物を横に置くと、再び縦に成長するために曲がろうとしてエネルギーを使い、蓄えた栄養素を使ってしまうのを防ぐため。畑での位置関係を再現することで、野菜の鮮度が保持できます。
③温度・湿度の管理で劣化を防ぐ
保存する温度も、育った環境に近い状態にすることで鮮度がキープできます。ほうれん草やキャベツなどの葉物野菜は温度が低めの冷蔵室(0~5℃)で保存、夏野菜やバナナのような暖かい気候で育つ果物は、涼しい季節は冷暗所(10~20℃)で保存し、夏季は野菜室(5~7℃)や温度の高いドア付近に置くのがよいでしょう。
野菜室でも温度が低い場合の工夫として、野菜をキッチンペーパーや新聞紙で包んでポリ袋に入れて保存すると、冷やしすぎを防ぐことができます。表面につく水滴の吸着や、乾燥予防にも役立ちます。また、呼吸を適度に抑えることもでき、ビタミンCなどの栄養素の損失を防ぎます。
これだけ覚えておくと便利!
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・にんじん、大根、カブは葉の部分を切り落とし、栄養の損失を防ぐ!
- ・残った野菜は切断面をラップで密閉して呼吸をおさえる
- ・キャベツは芯をくり抜き、濡らしたペーパーを詰めて保存
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・にんじん、長ねぎ、きゅうり、青菜類(ほうれんそうや小松菜)など、縦に成長する野菜はなるべく立てて保存する
- ・カットしたかぼちゃはカビやすい種とワタを取り除いて保存する
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・大葉やハーブ等は乾燥させないために密閉容器に入れ、濡らしたキッチンペーパーでくるんでおく
2. 冷凍庫での保存
冷凍に適さないものを除き、すぐに使わない場合は冷凍した方が美味しさや栄養素をキープできます。冷凍した食品は調理の際に味がしみこみやすく、調味料や油の使用量も控えることにつながり、健康維持にも役立ちます。
ただし、家庭用の冷凍庫で食品を冷凍する「ホームフリージング」においてはいくつか注意が必要です。
【急速凍結と緩慢凍結】
食品中の水分は-1℃あたりから凍り始め、-5℃程度でほぼ凍結します。この温度帯を最大氷結晶生成温度帯と呼び、通過する時間が長いと氷の結晶が大きくなり、食品の組織が壊れる原因となります(緩慢凍結)。食品の組織の損傷を少なくするためには、この温度帯を速く通過させる必要があり、この凍結方法を急速凍結といいます。市販の冷凍食品は-30~40℃の低温で素早く凍結されているため、おいしさを維持した状態で販売されていますが、家庭の冷凍庫は約-18℃のため、なるべく早く凍結させるための工夫が必要です。
【ホームフリージングに向いている食材は?】
・乾燥品や加熱調理したもの
・塩や調味液に漬けたものなど食品中の水分が比較的少ないもの
・スープやソース類、裏ごしした野菜など、組織が壊れている状態のもの
・パン、ごはん、もち、納豆なども品質低下が少ない
【美味しさ・栄養素キープのための下準備】
・塩などで下味をつけあらかじめ食材から水分を出しておく
・野菜類は下ゆでする。野菜が持つ酵素を不活性化させるために固めにゆでる等の加熱処理を「ブランチング」といい、市販の冷凍野菜でも用いられる方法。
【緩慢凍結にならないように】
① 冷却効率を上げるため、平たい形状で冷凍する。
② 下ゆでや下調理の後は粗熱を取ってから冷凍する。
③ 熱伝導の良い金属製のトレーに入れ、ラップの上からアルミホイルで包む、保冷剤をのせる等の方法で効率よく冷やす。
【食材の栄養素は減らないの?】
食材によっては、冷凍することによってうまみや栄養素が増えるものがあります。また、壊れやすい水溶性ビタミンやミネラル等も、適切に冷凍すれば、冷蔵で日数が経過するよりも栄養素が維持できる場合があります。
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■香味野菜:刻んで冷凍
ニンニクやネギ、ショウガに含まれる抗酸化成分は、冷凍しても減りにくい。
スープやみそ汁の薬味、餃子の具にするなど、加熱調理に使うのがおすすめ。 -
■トマトやキノコ:冷凍でうまみアップ
トマトやキノコは冷凍により細胞壁が壊れることでアミノ酸が増え、うまみが強くなる。
シチューやスープ類への使用がおすすめ。 -
■大根おろし
消化を助ける働きのある酵素ジアスターゼは、熱には弱いが冷凍しても壊れずキープできる。水分を適度に切ってから、小分けして冷凍すると便利。 -
■ほうれんそう・にんじん:β-カロテンが増加
ほうれんそうやにんじんは冷凍することでβ-カロテンという栄養素が増加する。ほうれんそうはアク抜きのため、固めにゆでて冷凍し、凍ったまま加熱調理が可能。
人参は輪切りなど小さめにカットし半解凍で調理すると火の通りも早い。 -
■しじみ:肝臓に良いオルニチンが増加
急速冷凍ではなく、-4℃付近で冷凍するとオルニチンが5倍以上増えるとされている。新聞紙などに包んで冷やしすぎないようにするとよい。
砂抜き後に水気を切って冷凍します。解凍時は水からでなく熱湯に入れて調理するなど、急激な温度変化によって殻が開く。 -
■バナナ:ポリフェノールが多い状態をキープ
完熟してシュガースポットと呼ばれる黒い斑点が出た状態で冷凍しておくと、酸化が進みポリフェノールが減ってしまう前の状態をキープできる。
牛乳とミキサーにかけてシェイクにしたり、半解凍のままアイスのように食べられる。
3. 安全に美味しく食べるための解凍のコツ
① 加熱解凍(調理):凍ったまま、もしくは半解凍で加熱し、一気に火を通す。
② 冷蔵庫内での解凍:食品全体を低温に保ち、ダメージが少ない状態で解凍できる。
③ 氷水解凍:氷水は冷蔵庫と同じくらいの温度。空気よりも水の熱伝導率が高く、ダメージを抑えつつ素早く解凍できる。
冷凍した食品は、菌が増えたりして傷むことはありませんが、乾燥や酸化は少しずつ進んでいきます。1カ月以内を目安に食べきりましょう。
今回ご紹介した適切な保存方法のアイディアはどれもひと手間かかるものですが、身につけておけば、美味しさや栄養素をキープしたまま食材のストックができ、食品ロス削減、節約にもつながります。 保存上手になれば、きっとたくさんのメリットが生まれるでしょう。
【参考文献】
・日本食品標準成分表2020年版(八訂)