遺伝子で決まる?!お酒の「強さ」
2016/12/20 掲載
あなたは、お酒に強いタイプですか?弱いタイプですか?
食事と一緒に楽しんだり、仕事などでのお付き合いや、リラックスするために飲んだり…と、お酒は生活に潤いを与えてくれる嗜好品です。
しかし、お酒を飲んだ際の体に対する作用には個人差があります。この個人差はその人の持つ遺伝子の違いに関わっています。
そこで、今回はお酒の強さは遺伝子レベルで決まるというお話をご紹介します。
飲んだお酒はからだの中でどうなっているの?
体内に取り込まれたアルコールは、まず「アセトアルデヒド」という物質に分解され、次いで酢酸、最終的に水と二酸化炭素になって体外へ排出される仕組みになっています。※1(図1)
(公益社団法人アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」より改変し抜粋 作図:タニタ)
アルコールを分解する物質「アセトアルデヒド」って?
お酒に「強い」、「弱い」というのは、「アセトアルデヒド」を分解する能力が高いか低いかで決まります。
アルコールを分解する物質のひとつ「アセトアルデヒド」は、「悪酔いの原因」と言われ、この物質が体内にたまると、顔面の紅潮・頭痛・吐き気・頻脈などの不快な症状が表れます。
これを数種類の「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)」が酢酸に分解します。その中の一つであるALDH2をつくる遺伝子の型の違いがお酒の「強さ」に関係しています。
ALDH2をつくる遺伝子には、お酒に「強い」、いわゆる分解能力が高いとされるN型(ALDH2活性型)と、突然変異で分解能力が低下したD型(ALDH2不活性型)があります。
誰でも両親から遺伝子を1つずつ受け継ぐことによって、NN型、ND型、DD型の3パターンになります。※2
同じ量の酒を飲んだ場合の血中アセトアルデヒド濃度は、ND型はNN型の人の4~5倍、DD型はNN型の人の20~30倍になるといわれています。(図2)
さて、皆さんの遺伝子タイプはどれにあてはまるでしょうか?
(飲酒行動と遺伝子.公衆衛生,63:234-237,1999 原田勝二著より改変し抜粋 作図:タニタ)
お酒が飲めるタイプは地域差がある?!
元々、人類はお酒が飲める「ALDH2活性型」の遺伝子を持っていました。遺伝子の突然変異によって、「ALDH2不活性型」が生まれました。「ALDH2不活性型」は、日本をはじめ北方アジア(新モンゴル)起源の民族で高頻度に見られます。低活性型と不活性型の出現頻度には民族的な差が顕著です。
世界的にみた「ALDH2」低活性型+不活性型との割合
日本人…44% 中国人…41% タイ人…10%
フィリピン人…13% ヨーロッパ系白人…0% アフリカ系黒人…0%
それでは、日本国内で見てみるとどうでしょうか?
ある研究によると、北海道から沖縄まで5,000名以上の日本人を対象に調べたところ、北海道、東北、九州、沖縄地方に酒豪遺伝子であるN型遺伝子を持つ人の割合が多いことが分かりました。
特に秋田県が一番多く、次に鹿児島県と岩手県、逆に最も少ないのが三重県、次いで愛知県という結果でした。※4
遺伝子以外にもお酒の「強さ」に影響するもの
お酒の「強い」、「弱い」は遺伝子のほかに、体格差や男女差、年齢差によっても異なります。
女性は男性に比べてお酒に「弱い」と言われています。女性は男性より体が小さい場合が多く、女性ホルモンがアルコールの分解を抑える作用があるためです。
また、高齢者の方が若者に比べてお酒に「弱い」傾向です。体内の水分量が少ないことや加齢に伴う身体機能の変化が影響しています。
お酒が飲める体質かどうかは、血液検査で調べる方法もありますが、簡易な「エタノールパッチテスト」や「簡易フラッシング質問紙法」という方法でも調べることができます。
「簡易フラッシング質問紙法」は「現在、ビールコップ1杯程度の少量の飲酒ですぐ顔が赤くなる体質がありますか。」「飲み始めた頃の1-2年間はそういう体質がありましたか。」の2問のいずれかに「はい」と答えればALDH2の活性が弱いタイプと判定できます。
また、お酒を飲むと顔が赤くなる等の現象を「フラッシング反応」と言います。お酒に弱い人に特徴的な症状です。「フラッシング反応」は、はじめは不快感を伴うため飲酒を控える傾向にありますが、長年飲んでいると耐性が発生して不快にならずに飲酒できるようになります。しかし、耐性ができて飲めるようになったという場合では食道や咽頭の発癌リスクが高まることがわかってきています。※5
長く健康を保ち、長くお酒を楽しむためにもご自身の適量に合わせ、飲酒をお楽しみください。
参考文献:
※1 公益社団法人アルコール健康医学協会「お酒と健康 飲酒の基礎知識」
http://www.arukenkyo.or.jp/health/base/index.html
※2 飲酒行動と遺伝子.公衆衛生,63:234-237,1999 原田勝二著(図2:改変し抜粋 作図:タニタ)
※3 アルコール代謝酵素の分類と多型-日本人における特異性. 日本アルコール・薬物医学会雑誌 36, 85-106,2001 原田勝二著
※4 飲酒様様態に関与する遺伝子情報,醸協,86 巻4 号,131-141,2001 原田勝二著
※5 厚生労働省:生活習慣病予防のための健康情報サイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-008.html