ダイエットと免疫力の話

2012/03/29 掲載

「ダイエットすると風邪をひきやすくなる」は本当?

「ダイエットをはじめたら風邪ひいてしまった」というハナシをちらほら耳にします。「食事のカロリーを減らすと抵抗力が落ちるんじゃないか」とか「断熱・保温の役目も果す体脂肪が減ると風邪をひきやすくなるのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

果たして本当にそうなのでしょうか。


 

食事と免疫の関係

確かに絶食してしまったり、“カロリーさえ低ければ”と栄養バランスを考えず急激に量を減らした食事になってしまう場合「急激な食事量低下=抵抗力(免疫力)が落ちる」というのはある意味正しいですし、実際そんな食事制限をして風邪をひいてしまった人もいるかもしれません。しかし、それは低カロリーだから・・・ではなく「食事の全体量」が減ってしまって、タンパク質やビタミン・ミネラルの摂取量が減ってしまっているからだと思われます。免疫細胞はタンパク質で作られますから、免疫力を落とさないためには「タンパク質」が重要で、ビタミンやミネラルも免疫力をサポートする大事な役割を持っています。 ダイエットしたら風邪引いてしまった・・・という方、ちょっと食事を振り返ってみてください。朝ごはんは抜きで、お昼はおにぎりやざるそばのみで済ませたりしていませんか?本来、きちんとバランスのとれた献立ならば、カロリーがかなり低くてもウィルスと戦う免疫には問題ないのです。むしろ低カロリー食の方が免疫力が高まるという研究結果1)2)があるくらいです。


元々生き物は、飢餓や空腹にはある程度対応できるように身体機能ができていますが、必要以上に高カロリーの食事で生きるようにはできていませんので、むしろエネルギーが余っている状態の方が免疫にとって良くないのです。満腹状態があまりに続くと免疫力が落ちると言われています(だから「腹八分目」が推奨されるんですね)。注意しなければならないのは「カロリーが低いこと」ではなくて「タンパク質やビタミン・ミネラルが減ること」なんです。

免疫力を落とさず元気にダイエットをするという意味でも「食事の量」を減らすのではなく、低カロリーでもたっぷり食べられる野菜や海藻、きのこ類中心のメニューに切り替え(ビタミン・ミネラルもたっぷり摂れます)、タンパク質は減らさないように肉・魚・卵・大豆食品のどれか1種類はしっかり摂るようバランスをとってカロリーを抑えるようにしてみてください。でもどうしても忙しくて食事のバランスなんて考えていられない、という時はサプリメントやドリンクを補助的に利用するのも良いでしょう。その際にはビタミン・ミネラルだけでなくプロテイン(タンパク質)かアミノ酸(タンパク質の構成成分)もしっかり摂れるものを選んでくださいね。


体組成と免疫の関係

では、体組成と免疫の関係はどうでしょうか。たまに「体脂肪を減らすと風邪をひきやすくなる」というようなことを聞きますが、その根拠となるような研究結果はいくら探しても見当たりませんでした。確かに、体脂肪は体温を保持するための断熱材のような役目も持っていますし、体温が下がると免疫力は低下します。でも痩せている人より体脂肪の多い太めの人の方が風邪をひきにくいという傾向は見られませんし、「体脂肪」と「体温」「免疫」との直接の因果関係はあまり無さそうです。ただ、考えられるのはやはり無理な食事制限をして不健康に体重減少した場合、代謝が落ちますから抹消の血行不良がおこり冷えやすくなるということです。このような状態の時は手足が冷えやすくなって免疫力も下がり風邪もひきやすくなるでしょう。体脂肪を減らすと風邪をひくと思われている根源は、こんなところかもしれませんね。

逆に、適度で快適な運動は免疫細胞の活性を高めますから、軽い運動を取り入れて健康的に脂肪を燃焼させた場合は風邪もひきにくいはずです。(あ、でも寒い格好で運動して汗かいても放置、身体を冷やしたりしたら、いくら「適度な運動」でも、そりゃー風邪ひいちゃいますが。)体力に見合わないきつい運動や疲労感を感じる運動量も今度は「ストレス」となって免疫を低下させてしまいますのであくまでも「快適な」運動、に限りますが。

また、身体の熱は骨格筋内で最も多く発生しますので体温を上げて免疫力をUPさせるという意味では筋肉質の人の方が有利かもしれません。しかし、女性は正常なホルモン変化を維持し女性としての機能を保持するためにもある程度の体脂肪率が必要です。くれぐれも減らしすぎないよう、適度な体脂肪は持っていてくださいね。
  

風邪をひきやすいのはどんな時?

 「いつも同じような時に風邪をひく」・・・という方、「すごく忙しいときに限って」とか「すごく忙しくてプレッシャーのかかる仕事が終わったとたんに」ということが多くありませんか?ストレスや疲労は免疫細胞の活性を著しく低下させてしまうのです。そのうえ睡眠不足だったりすると、もうかなり免疫力ダウンです。自分の役割をこなすまでは気力でなんとか乗り切ってしまう(人間の「気力」ってすごいんです)という超頑張り屋な人でも、一段落ついてホっと気が抜けたとたんに、それまで気力に押され息を潜めて潜伏していた風邪ウィルスが大暴れ、ひどい風邪症状が一気に噴出したりします。忙しいのは仕方ないのですが・・・、できれば、なんとかうまく気分転換してストレス発散しつつ、休息をとって免疫機能が脚をひっぱられないように調整していただきたいです。(それができればとっくにやってるよー・・・という声が聞こえてきそうですが)

また、女性の方は、「月経前~月経中の体調不良期(PMS期)」が要注意です。この時期、女性の身体は「妊娠しているかもしれない」状況を守ろうと必死で、むくみは出るし身体はだるいしお肌の調子も悪い、メンタル的にも感情の起伏が激しくなって落ち込みがち・・・その上、免疫力も低下してしまうんです。悲しすぎますね。でも、仕方がありません。女性である以上、この体調変化とはずっとつきあっていかねばならないんです。この時期はひどい風邪になってなかなか治らない、という状況になりやすいので、とにかく無理は禁物です。なんとかストレスをためず、ゆったり気楽に過ごしていただけたら・・・と思います。
  

風邪をひいてしまったら

いろいろと「風邪のひきやすさ」に関わる免疫の話を書いてきましたが、そうは言っても風邪をひいてしまう時はもう、どうしようもないんですよね。忙しく頑張った結果身体が疲れてそこを風邪が直撃!それでも無理して仕事しなくちゃならない・・・うう。なんて健気で尊いことでしょう。ホントはもう「家で寝てなさーい!」と言ってしまいたいんですが、それができればとっくに休んでますよね。風邪をひいてしまった時、せめて、なんとか早く回復していただくための対処方法(図1)と、僭越ながら私めの個人的レシピではありますが風邪によく効く!(・・・と思っている)超カンタンおすすめ手作りドリンクのつくりかたを紹介させていただきます(図2)。少しでも皆様の元気な回復へのお役に立ちますように・・・。





最後に国内・海外の文献を調べつつふと思ったのですが、英語では風邪をひくことを「catch a cold」とか「catch a chill」というように「catch(捕らえる)」という言葉を使い、日本語でも「ひく(引き込む、引っ張り込む)」というやはり能動的な動詞を使いますよね。 どちらも主体の人間が自分で捕まえたり、引き込んでいる・・・という感覚なのですね。受動的な「うつされる」という言い方もしますが、やっぱり自身の生活行動が引き込むものなのだと万国共通(?英語圏以外の国ではわかりませんが)に昔から思われていたのかも・・・となんとなく納得したのでした。では、みなさん、免疫力UPのストレスためない生活で元気に乗り切りましょうね!

脚注1)Janko Nikolich-Zugich et al., Proceedings of the National Academy of Sciences, USA(PNAS,2006; 103: 19448-19453)
2)Medical Tribune  2007.2.8. (VOL.40 NO.6) p.01

 

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