管理栄養士が徹底解剖する!インスタントラーメンの話

2019/03/12 掲載

インスタントラーメンと災害

私は阪神淡路大震災で被災し、ライフラインが復旧するまでの数日を冷たいおにぎりで過ごしました。食べるものがある状況はとても恵まれていましたが、1月の小雪が舞う気温下で『温かいものが食べたい!』という思いも増していきます。 数日後にカセットコンロでお湯が沸かせるようになり、最初に作ったのがカップ麺でした。その温かさに心とからだが癒されたことを20年以上経った今でも忘れることができません。
日本は災害が多い国ですので、私と同じような経験をされた方も多いかと思います。 そんなカップ麺やその前に生まれた即席麺、いわゆる「インスタントラーメン」のことについて、管理栄養士の目線で見てみようと思います。

インスタントラーメンと食文化

ご存知の方も多いと思いますが、世界初のインスタントラーメンは1958年に大阪府池田市で生まれました。
それから60年以上経過した現在、日本国内に留まらず世界各地に広がり、「世界の食文化を変えた」と称されています。
では、食文化の基礎である、家庭の食卓でインスタントラーメンはどれくらい食べられているかを総務省の家計調査(表1)の購入数量から見てみました。
 

◆カップ麺・即席麺年間摂取量ランキング(単位:g)【表1】
品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)

順位 カップ麺と即席麺総数量 カップ麺数量 即席麺数量
1位 青森市 9529 青森市 5950 鳥取市 4533
2位 鳥取市 8720 新潟市 5053 青森市 3579
3位 新潟市 8363 富山市 4701 北九州市 3399
4位 富山市 7835 札幌市 4347 佐賀市 3321
5位 山形市 7208 盛岡市 4345 新潟市 3310
     
48位 高松市 5249 東京都区部 2749 水戸市 2126
49位 甲府市 5184 横浜市 2641 東京都区部 2095
50位 東京都区部 4844 高松市 2583 甲府市 2037
51位 横浜市 4653 大分市 2519 横浜市 2012
52位 那覇市 4186 那覇市 2449 那覇市 1737
平均 全国 2643 全国 3506 全国 2643

総務省統計局:家計調査(二人以上の世帯)平成27年~29年平均


表1から1世帯あたり年間購入個数を推測すると、カップ麺は青森市で約80個、即席麺は鳥取市で45袋となります。カップ麺と即席麺を合わせると年間購入個数は更に多くなります。なぜ、青森市や鳥取市の購入数量が多いのか明確には分かりませんが、カップ麺と即席麺を合わせた総数量の上位は、傾向として雪の多い地域のようです。

実際に、青森県出身の弊社社員に聞いてみたところ、冬は雪が多くて買い物に頻繁に行けないので、保存ができ、食べる際はからだが温まるインスタントラーメンは倉庫にストックが大量にあったとのこと。それを聞いて、雪だけでなく、頻繁に買い物に行くことができない高齢者の利用率も高いかもしれないと思いました。

以前は、若者が食べるイメージがあったインスタントラーメンですが、今はそうではないかもしれないと、家計調査を見ながら考えさせられました。 地域や社会の状況など様々な背景に応じて、食文化は受け継がれながら変化していくもの。インスタントラーメンも単純に嗜好だけでなく、様々な背景があって私たちの食生活に浸透してきていることが伺えます。

インスタントラーメンと健康

よく、この食品は「健康に良いですか?悪いですか?」と、聞かれることがあります。
私は研究者ではないので、食品の安全性は科学的根拠に基づいて国が定めた基準がクリアされているものについては、それを信じるしかありません。ただ、どんな食品もそれだけを食べ続けて健康になれる食品はないと思っています。何をどれだけ食べれば、より健康に近づくことができるのかを栄養素単位から食品に置き換え、人にお伝えするのが私の仕事です。

そこで、インスタントラーメンを健康の視点から見てみました。 現在、日本人の食事摂取基準2015年版では、一日の食塩摂取の目安は、男性8.0g未満、女性7.0g未満となっています。
これは、高血圧の原因となる食塩の摂り過ぎを防ぐために設定された目標ですが、実際にはそれを上回っているのが現状(表2)です。
 

◆食塩摂取量(平均値)の全国ランキング(単位:g/日)【表2】

順位 都道府県
男性
都道府県
女性
1位 宮城県 11.9 長野県 10.1
2位 福島県 11.9 福島県 9.9
3位 長野県 11.8 山形県 9.8
4位 福岡県 11.7 青森県 9.7
5位 秋田県 11.6 千葉県 9.7
   
43位 滋賀県 10.1 香川県 8.6
44位 岡山県 10.1 岡山県 8.4
45位 大阪府 9.9 高知県 8.4
46位 高知県 9.8 大阪府 8.4
47位 沖縄県 9.1 沖縄県 8.0
平均 全国 10.8 全国 9.2

厚生労働省:平成28年国民健康・栄養調査

では、インスタントラーメンには、どれくらいの食塩が含まれているのかを代表的な即席麺とカップ麺の表示を見てみます。

■即席麺の栄養成分表示
1食(85g)当たり
熱量 377kcal
たんぱく質 8.2g
脂質 14.5g
炭水化物 53.6g
食塩相当量 5.6g
(めん 2.3g)
(スープ3.3g)
ビタミンB1 0.61mg
ビタミンB2 0.74mg
カルシウム 278mg
----------------
熱量
めん 335kcal
スープ 42kcal
合計 377kcal
■カップ麺の栄養成分表示
1食(77g)当たり
熱量 353kcal
たんぱく質 10.7g
脂質 15.2g
炭水化物 43.4g
食塩相当量 4.9g
(めん・かやく 2.4g)
(スープ2.5g)
ビタミンB1 0.20mg
ビタミンB2 0.22mg
カルシウム 95mg
----------------
熱量
めん・かやく 335kcal
スープ 18kcal
合計 353kcal

ちなみに、タニタ社員食堂レシピでは、一定食あたり塩分3.0gまでに抑えながら、美味しく食べられる工夫をしながら新規のメニューを開発しています。それを踏まえて比較すると、インスタントラーメン一食に含まれる食塩は即席麺5.6g、カップ麺4.9gと、タニタ食堂の一定食分を上回っています。

ですが表示をよく見てみると、麺とスープで食塩とカロリーが分けられています。例えば、スープを9割残し、麺を中心に食べると食塩は2.6g程度に収まるようです。
同時にスープに溶け出た油も減らすことができるので、余分な油をカットしカロリーダウンにも繋がりますね。
インスタントラーメンに限らず、生麺であってもスープには食塩が多いことを知っておいていただきたいと思います。
 

また、健康コラムにも何度も登場している栄養バランスを整える3つのお皿「主食」・「主菜」・「副菜」の内、麺は「主食」に当たります。

残り2つのお皿をそろえるには、王道の生卵を即席麺に落とすほか、ゆで卵や蒸し鶏など主菜を1品トッピングします。カット野菜やカットわかめを麺と一緒に茹でたり、麺の上に乗せてお湯を注ぐ、野菜サラダやマリネ、もずく酢など副菜を1~2品をプラスできれば、栄養のバランスは格段に良くなります。

また、生野菜や果物に多く含まれるカリウムには、塩分を体外に排泄しやすくする作用がありますので、普段でも不足しがちな野菜や果物を意識して摂るようにしましょう。

タニタ社員食堂レシピのモバイルサイト・アプリでも「即席めんにプラス一品」という特集を組みましたので、閲覧できる期間は限られていますが、ぜひ参考にしてみてください。

インスタントラーメンとイノベーション

現在、私はタニタヘルスリンクで「日本をもっと健康に!」を目指し、健康を自分のこととして捉え、楽しみながら健康づくりができるようなサービスを企画するイノベーションチームに所属しています。
そのチーム内で「イノベーションフライデー」と称し、毎月末の金曜日に他社のサービスから何かを学んでくる時間が設けられました。

私は、イノベーターとして素晴らしい功績のあるインスタントラーメンの開発をされた安藤百福氏のことを知りたいと、カップヌードルミュージアム 横浜を選びました。ミュージアムの中にあったクリエイティブシンキング ボックスというコーナーで、イノベーションの考え方を学ばせていただきました。インスタントラーメンを開発された思いだけではなく、今より明らかにものがない時代に開発から商品化するまでのスピード感にも驚かされました。

人生100年時代といわれ、健康は個人の問題だけではなくなってきています。団塊の世代が75歳を迎える「2025年問題」はすぐそこまで迫っています。「日本をもっと健康に!」もスピード感を持って取り組んでまいります。


【カップヌードルミュージアム横浜にて】
弊社のイノベーションチームメンバーとインスタントラーメンを粉から作る体験をしました。

60年以上も前に、世の中に無かったところから生まれたインスタントラーメン。食文化や健康、イノベーションと様々な角度から見て、学ばせていただきました。 このコラムを読んで「インスタントラーメンが食べたい!」と思われた方は、塩分と栄養バランスを意識して、美味しく召し上がってください。
 

参考資料:インスタントラーメン発明物語(インスタントラーメン発明記念館編2000年発行)
総務省統計局 家計調査  https://www.stat.go.jp/data/kakei/ 
厚生労働省 国民健康・栄養調査  https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
厚生労働省 NDBオープンデータ  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html

※本コラムに記載されている情報は掲載日時点のものです。このため、時間の経過あるいは後発的なさまざまな事象によって、内容が予告なしに変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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