納豆のネバネバの秘密

2012/07/10 掲載

「納豆」と聞いてイメージするものは何ですか?
私が一番最初に思いつくものは、あの特徴的な糸。そう!ネバネバです。
これが好きだという人も、これが嫌だという人もいますが、そもそもこの糸は何でできているのか、気になったことはないですか?

実は私、大学の授業で、納豆を作ったことがあります。
大豆を蒸して、納豆菌を振りかけて作るのですが、その納豆は今までに見たことがないくらい糸を引いていました。
まったく切れません。当時、私は納豆菌の量が市販のものよりも多くて、ネバネバが大量に作られたのかな?と思っていましたが、そう考えると、市販品には納豆菌があまり入っていないということになってしまいます。
本当のところ、あの糸引きの違いは何だったんだろう??長年の疑問をついに調べてみることにしました。
 

糸の正体

納豆の糸については昔から調べられているようで、今から約50年も前に福岡女子大の藤井久雄氏が、
「納豆菌による粘物質の生成に関する研究」という論文の中に登場しています。それによると納豆の糸は、L-グルタミン酸とD-グルタミン酸から成る「γ-ポリグルタミン酸」と果糖が繋がったものの混合物であり、糸引きの現象は主に「γ-ポリグルタミン酸」によるものとのこと。

また、「納豆はたくさんかき混ぜた方がおいしくなる」という話を聞いたことはありませんか?
これはどうやら、かき混ぜるとネバネバ糸の正体であるγ-ポリグルタミン酸がちぎれて、旨味成分であるグルタミン酸が一部遊離して、旨味を増すからのようです。
 

原料大豆の産地によって糸引きは違う?

糸の正体がわかりましたが、この糸引きは何によって変わってくるのでしょうか?あまり知られていない事ですが、納豆の原料に使われている大豆の主な産地は3つ。
アメリカ(カナダ)産、日本産、中国産です。実は、産地の違いが糸引きの強さに影響を与えていたのです。
糸引きや豆の硬さに影響される粘度について、アメリカ(カナダ)産のものが他のものに比べて、約3倍高く
同時にアメリカ(カナダ)産のものは、糸引きに関連のあるポリグルタミン酸が多いことがわかりました。(1)

今まであまり原料大豆にこだわって納豆を買ったことはなかったのですが、それぞれの産地に特徴があることを私も始めて知りました。いっぱい糸を引きたい!という方はアメリカ(カナダ)産のものを選ぶとよいかもしれませんね。
 

納豆菌の違いによって糸引きは違う?

また、糸引きの強さの違いは大豆の産地だけでなく、納豆菌の種類によっても異なります。
これも私は初めて知ったことなのですが、「納豆菌」とひとくちに言っても、メーカーによって使用している菌の種類が違うそうです。現在日本で市販されている菌は、以前よりある3種類の納豆菌の他、メーカー独自に開発された納豆菌を商品によって使い分けています。「高橋菌」という菌が他の菌に比べて、糸引きと旨味が強いようですが、納豆菌の種類までは、商品に記載がないので、この菌の商品を買おうとするのは、なかなか至難の業かもしれません。
 

かき混ぜ回数によって糸引きやおいしさは違う?

みなさんは納豆を何回くらいかき混ぜていますか?
かき混ぜ回数が50回のものよりも、500回の方が粘度は増加することがわかっています。
けれどもその違いは約1.34倍。(2)食べるときは50回強まぜる位で十分のようですね。

【納豆をおいしく食べるには?】
「納豆は賞味期限間近の方がおいしい」という話聞いたことがあるかもしれませんが、
実は、これについても研究されています。
納豆の旨味、甘味に関係する「グルタミン酸」「直接還元糖」の溶けだしが多いほど、おいしいと感じるのですが、これらが購入直後のものよりも、低温熟成期間をおいたもの(保存期間が長かったもの)の方が増加していることがわかっています。(3)
あくまで賞味期間を超えない範囲で、期限間近の方が納豆の味わいが良いようです、これは是非試してみたいと思います。

日本人が昔から食べている『納豆』ですが、実に奥が深いことがわかりました。
私が学生時代に実験で作った納豆が、なぜあんなにも糸を引いたのかについては、はっきりとは解明できませんでしたが、菌の違いということもあったのかもしれません。手軽に食べられて、ビタミンB2やビタミンK、たんぱく質など栄養たっぷりの「納豆」。大豆の産地やメーカーにこだわり、ちょっと視点を変えて選んでみるのもおもしろいかもしれませんね。

参考:「納豆の保存中における成分変化」竹村真由美
(1):原料大豆の産地の違いによる比較
(2):かき混ぜ回数の影響
(3):製造ロット間及び製造後の保存期間の影響

 

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